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トロツキーにおけるコミュニズムの萌芽

 投稿者:  投稿日:2005年 6月26日(日)03時33分10秒
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   最近は左翼の間でも、社会主義(国有化、計画、そしてエンゲルス)の評価は極めて低いものとなっています。土地と生産手段の国有化だけでは、国家が資本家の立場に立つだけであって、賃労働は廃止されない。直接コミュニズムを目指すべきだ。マルチチュード=アウトノミアに可能性を見出すネグリや、生産‐消費協同組合のアソシエーションのグローバルな展開を主張する柄谷行人をはじめとして、ほぼこのように考えているようです。これらの実現可能性、持続可能性については、原理的な次元においてさえ疑問の余地があるのですが、しかし、現時点の資本主義社会下での運動においても既にコミュニズムの萌芽が見られるものとなっていなければならないという、彼らの考え方には大いに共感できます。
 このようなことを考えながら、ソヴェトの経済政策に関わるトロツキーの一連の著作・論文(「コミンテルン4大会」、「共産党12大会工業報告」、『新路線』、「社会主義へか資本主義へか」、「合同反対派政綱」、『裏切られた革命』など)を読んでみました。工業への重点化を訴える政策提言において、徹底して党内民主主義が主張され、しかも一見して瑣末とも思えるところまで具体的に検討が加えられていること、しかもそれが工業化の主張と一体化されていることは、もっと注目されてよいのではないかと思いました。例えば、生産の現場からの活発な意見、情報の公開性、これらに条件づけられてのゴスプランの計画、そして工場労働者への啓蒙活動というように、民主化と計画化は相互に補完的で、一方の目的のためには他方の存在が不可欠となっています。そして、プロレタリアート独裁の労働者国家を最大限利用した、世界革命後の社会主義経済建設への準備という段階での提言であるにもかかわらず、ここには部分的ながらコミュニズムの萌芽があり、それも最近の議論よりもずっと明確な萌芽があるといってよいのではないでしょうか。
 外では強力な世界市場にさらされている以上、資本=国家が存在しなければなりませんし、労働生産性に応じた賃金分配が行われているので賃労働はそのまま残っています。この点では、資本=国家の配当が平等に労働者に配られる(可能性がある)ところだけが唯一の違いです。これは過渡期経済では無理からぬことでしょう。しかし労働のあり方は大幅に異なります。かつてアーレントは名著『革命について』で、コミューン、レーテ、ソヴェトを高く評価しましたが、それは、そこに参加する者の活動が公共性の領域を切り開き、公民が統治権に直接関わることを可能にしたからです。しかしアーレントは、こうして形成された公共空間が極めてはかないものであることを示し、さらに、政治活動を得意とする者は企業経営には著しく不向きであることを指摘して、ソヴェトが示す革命的な状態は、単なる民会の場合よりも急速に消滅せざるを得ない、と言っています。さて上で触れたトロツキーの思想(というより政治的綱領)はどうでしょうか。公共空間の持続、経済活動の全域への公共空間の拡大であり、まさに「永続革命」です。アーレントは、私的領域のみが関心の的になって消費への依存を強めていく作用を持つがゆえに、「労働」に低い価値を与えたのですが、トロツキーにおいては、労働がそのままアーレントの言うところの「活動」になっていると思います。個々の工場労働者が、現場での有形無形の知識とともに経済全体や政治情勢についての知識を持って、生産現場からの意見を提示するだけでなく、ソヴェト(あるいは党)においてミクロ・マクロの政策提言を行う、というところまで具体的なイメージを持って考えていたのではないかと思います。そこで重要なのは、労働者の啓蒙であり、知識の充実化、判断力の養成、徹底的な情報公開ということになります。ここまで考えてくると、1904年のレーニン批判、十月革命時のソヴェト正統性の承認、革命直後に機関紙の担当を希望したこと、赤軍建設の方法、労働組合を「たたき直す」提言、主流派を外れて後の生活習慣に関するこまごまとした改善活動などが、一本の線で結ばれるのではないでしょうか。

 本当は計画の問題について質問する予定だったのですが、異常な長さになってしまいました。しかし、上に書いたことを前提にしないと誤解を招くような質問になると考えたため、今回はこれで投稿しようと思います。一方的な意見表明と受け取られたら申し訳ありません。本来の質問については近いうちに行う予定です。次回の「トロツキー研究」を楽しみにしております。近いテーマが扱われているので…。
 
 
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