技術と科学の結合を!

 トロツキー/訳 西島栄

【解説】本稿は、軍事人民委員を解任されて最高国民経済会議(ヴェセンハ)の経済技術関係の役職に就いたトロツキーが、その一つである工業科学技術局議長として執筆した論文の一つである。この論文はヴェセンハの機関紙である『商工業新聞』に掲載された。

 この論文の中でトロツキーは、過去の迷信や遺物を一掃し科学技術の発展とその正しい適用を社会主義建設の重要な課題として提起する一方、世界市場の圧力を十分に自覚した上で、技術と科学との結合を進めるよう訴えている。トロツキーは、社会主義的保護貿易制度に守られて旧習墨守的なやり方を維持しようとする経済官僚にその攻撃の矛先を向けていたのである。

 Л.Троцкий, Сочетать технику с наукой!,Торгово-промышленная газета,18 Июля 1925.


 わが国の経営担当者に、そして一般に国のすべての先進分子に、わが国の科学技術思想の仕事と成果を知らせなければならない。わが国の社会的条件の中には、かつて多くの旧習墨守、保守主義、あからさまな野蛮が維持されていた。貧困からわれわれを救いだし、社会主義の実現を保証する推進力の一つは、技術である。だがわが国の技術そのものが、巨大な程度で、同じ過去の伝統と習性によって、すなわち、後進性、新しいものに対する不信、新しい生産方法の探求や科学的・実験的研究に対する無関心、いやそれどころか半ば敵対的でさえある態度、等々によって育成されたものである。ここから、しばしば国家の保護貿易主義に対する過大評価とも言える期待が出てくるのである。外国の商品を入れさえしなければ、相変わらず古くさい方法で生産していける、というわけだ。率直に言っておかなければならないが、このような気分は存在する、そして、それは単なる例外的なものではない、と。このような気分は、わが国の経済発展の途上に立ちふさがる障害の一つである。

 外国貿易の独占や、国内工業の活動に厳格に一致した計画的な輸入のうちに表現されている社会主義的保護貿易制度は、われわれにとって無条件に必要なものである。この点に関してはいかなる退却もありえない。しかし、社会主義的保護貿易制度はけっして後進性と旧習墨守を守る盾ではありえない。世界資本主義の技術は、外国貿易の独占を通じても、わが国に圧力をかけている。そして、この圧力はいいことである。なぜなら、それはわれわれを前に駆り立てるからである。われわれはオブローモフ流に生きることはできないし、夜郎自大にふるまったり、あてずっぽうに生産することはできない。ますますわが国の経済発展のテンポを加速させることは、言葉の完全な意味で、死活にかかわる問題である。そして、この問題を解決することは技術と科学とを結合することなしには不可能である。

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 もちろん、われわれは今後ともヨーロッパおよびアメリカの技術を利用するだろうし、わが国より強い多くの点を資本主義諸国から遠慮なく学ぶだろう。しかし、技術の成果というものは、科学と同様、機械的に移植することのできないものである。それは系統的に習得することしかできない。アメリカの技術は、この場合のみ、わが国の工業と農業に結合して成果を生み出すことができるのである。すなわち、国内において、工業および農業自身が、批判的・創造的な技術的知識を少しづつ働かせ、わが国自身の日々の経済的経験を検証し、外国の技術の新しい成果のそれぞれをわがものとし、それをわが国の生きた基盤に適用する場合のみである。

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 科学技術知識の最も重要なてこは、わが国における工業と農業の科学研究所、中央実験所である。これらの機関はすでに、さまざまな分野においてきわめて大きく価値ある成果をあげている。わが国の先進的な経営担当者は、正しい科学技術活動の巨大な意義を全面的に理解している。彼らのイニシアチブによって、すでに存在している研究所に加えてますます新しい研究所が設立されている。わが国の非常に前途有望な石油工業は強力な石油研究所の設立に着手している。繊維労働者は現在、繊維研究所の設立について論議している。もしそれが設立されれば、科学的分析を発展させる力となり、この、重要ではあるがまだ非常に遅れている工業分野を前進させることだろう。

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 わが国の科学研究所はもちろんのこと、住民の関与なしに、少なくとも、その最も先進的で自覚的な層の関与なしに活動することはできない。社会主義経済の建設は、その本質そのものからして、集団的な仕事である。そして、経済の科学的組織化に向けた意識的な努力が次々と住民の各層を包含し、人民大衆のすべての層を包含していく程度に応じてのみ、科学技術知識は、わが国の貧しく後進的で旧習墨守的な経済を下から上まで刷新することができるのである。

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 経済関係のメディアおよび一般メディアの課題は、わが国の科学技術機関の仕事、および、それと工業の発展との相互作用とを、注意深く暖かいまなざしで観察することである。生産の合理化について一般的・抽象的に論じることは、徐々にやめていくべき時である。課題をより正確かつ具体的にする必要がある。良質なマッチ、良質で節約的な電球、色褪せしない更紗、濡れない防水布、容易に布地を通る針、切れにくい糸をつくらなければならない。そして、「小物」から巨大な電気技術設備やその他の設備にいたるまで、そうでなければならない。工業が研究所に課題を与える。研究所はそれに応え、それによって工業に課題を与える。この分野においては、いかなる取るに足りない、ないし不十分な注意もあってはならない。工業により良質でより安価な石けんを製造することを学ばせることは、国の文化一般を引き上げ、それによって、あらゆる分野でのさらなる科学技術上の成果を促進することを意味する。更紗の耐久度を同じ原価で10%向上させることは、無線技術の分野での最新の成果に優るとも劣らない重要性を有している。より正確に言えば、どの分野も同じ課題を有している。すなわち、人間集団を豊かにし、その物質的・精神的力を強化すること、である。

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 わが国のメディアと世論の注意をこの側面に向けよう! わが国の科学技術研究を、その探求を、その成果を知る必要がある。その活動のすべてが思う存分発展できるようにしなければならない。有能で精力的で献身的な最良の科学技術活動家は、国全体の配慮と共感と愛情に包まれなければならない。

 

 欲すれば、成し遂げられん!

『商工業新聞』1925年7月18日号

新規、本邦初訳

 

トロツキー研究所

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