青年労働者の集会における演説
トロツキー/訳 西島栄
【解説】これは、1925年12月14日にロシアの労働者とドイツの青年労働者代表団との交流記念集会で行なわれた演説である。この演説の中でトロツキーは、「ドイツに帰ったらドイツの労働者に、わが国のあるがままを、粉飾することなく、誇張することなく、誠実かつ正確に語ってほしい。あなた方の後でやってくる人々が失望したりしないように、と」述べている。これは、ロシアの現状を粉飾し美化することに汲々としていたスターリニストの発想とは根本的に異なるものである。
またトロツキーは最後に、「わが国と、労働者階級が権力をとったドイツ、高い文化と高度な技術を備えたドイツとの同盟――これは、人類史において最も強力なパクトであり、最も堅固なスムイチカである。そして、ドイツ労働者が権力をとった暁には、全世界の奴隷制度と搾取と植民地的抑圧の世界の上に最後の弔鐘が鳴り響くだろう」と力づよく締めくくり、世界革命の見地を青年労働者に訴えた。
Л.Троцкий на собрании рабочей молодежи,
Торгово-промышленная газета,16 Декабря 1925.12月14日の夜7時、「オリオン」劇場にて、部品工場「ラジオ」の労働者とドイツ青年労働者代表団とによる記念集会が開かれた。盛大な拍手に迎えられて、同志エリ・デ・トロツキーが会議に到着。議長が開会を宣言し、議長団の構成メンバーの名前が読み上げられたのち、同志エリ・デ・トロツキーが登壇した。
同志諸君、外国の代表団による訪問の意義はもちろんのこと単なる記念集会にかぎられるものではない。そうではなく、これは、わが議長がスムイチカと呼んだところの一つのt結合なのであり、そしてその呼び方は正しい。この結合はまだ始まったばかりであるが、全世界の労働者階級にとって――全人類史にとって、と言うことすらできるだろう――巨大な意義を持つことになるだろう。
現在、諸君もご存じのように、ヨーロッパにおいて、ブルジョア・ヨーロッパにおいて、いわゆるロカルノ条約
[パクト]に関する会議が開かれている。パクトという外国語は、協定、取引という意味であり、したがってスムイチカとも言うことができる。このパクトは、労働者に対する闘争のための、ヨーロッパのブルジョア政府間のスムイチカである。そして、状況がわれわれに不利になった場合には、われわれに対する直接的な闘争を遂行するためのスムイチカである。そして、このロカルノ条約、すなわち勤労大衆に敵対する帝国主義者同士のスムイチカの時期にあって、われわれはヨーロッパの勤労者とわが連邦との間のスムイチカを形成し、強固にしているのである。今現在、このホールにて、ロカルノ条約ではなく、ささやかなモスクワ条約が、すなわち全世界における闘争のための労働者の協定が形成されつつあると言うことができるだろう。もちろん、ロカルノ条約は強力なヨーロッパ諸国による協定である。それに対して、わが方、ここで形成されつつある協定は、労働者が権力についている唯一の国の男女労働者と、プロレタリアートがまだ奴隷状態にある他の国の労働者との協定である。彼らには巨大な闘争がまだ前方に課題として控えている。
同志諸君、ドイツの偉大な革命家であるラサールはかつてドイツ労働者にこう言ったことがある。あらゆる偉大な事業は、あるがままを率直に語ることから始まる、と。
ドイツの革命家ラサールは次のように述べている。「抑圧者は被抑圧者をだますことによって軛(くびき)を維持している。被抑圧者は真実を通じてのみ自らを解放することができる。彼らは、あらゆる困難を正確に知ったうえで、この道を進むのである」。まさにそれゆえにこそ、われわれは、わがドイツの友人を迎えて、こう頼むのである。ドイツに帰ったらドイツの労働者に、わが国のあるがままを、粉飾することなく、誇張することなく、誠実かつ正確に語ってほしい。あなた方の後でやってくる人々が失望したりしないように、と。
わが国はこの数年間で非常に力強く復興した。諸君の経済がマヒし、破壊され、粉砕されてしまって以来、そしてまた、このモスクワが飢餓と伝染病とチフスによって覆われ、モスクワの街頭が雪で埋まってどこにも行けなくなってしまい、わが国の食料が、しっけたワラのまじる半分腐った穀物が8分の1だけになった時以来――この時以来、わが国は上昇した。この上昇は、勤労大衆のうちに強力な力が秘められていることを物語っている。しかし、同志諸君、モスクワの男女労働者や青年は、わが国にあるのは無線部品工場だけではないことを知っている。無線は現代技術の現代的成果である。だが、わが国には、まだ巨大な領域、すなわち農村が存在し、そこにおいては、農民が、中世以来代々にわたってわが国で使われてきた原始的なソーハ
[犂]でもって土地を耕している。われわれの目の前に控えている仕事は、わが国の男女労働者が権力を獲得したことで永遠に成し遂げた仕事よりもはるかに大きなものである。そして、この権力獲得は、われわれのさらなる成功のすべての条件である。ドイツ労働者は、この点をわが国から学ぶことができるし、全支配階級に対する労働者階級の闘争におけるあらゆる困難と闘争方法とを学ぶことができるし、学ばなければならない。この課題は、まだ彼らの前方に控えている。彼らの敵はより強力であるが、ドイツの労働者階級はわが国の労働者階級よりも多数である。
ドイツにおける闘争は激烈なものとなるだろう。それがいつ始まるかを言うことは困難である。しかし、同志諸君、われわれがあまりにも長くドイツの急速な革命を期待したために、あたかもそれを期待する癖がなくなってしまったかのように、われわれは、その接近をあまり尚早に期待しなくなった。だが、革命の遂行をあまりに遠くに延期しないようにしなければならない。
ヨーロッパの状況、ヨーロッパのブルジョアジーの状況に出口はない。ドイツでは経済恐慌が再び数千の失業者を街頭に放り出している。フランスでは、ブルジョアジーは通貨を維持することがまったくできない。イギリスで見られるのは、失業、輸出の下落、階級闘争の先鋭化である。ヨーロッパにおいて不可避的な新しい激変を前にして、わが国は粘り強くゆっくりと上昇していっている。疑いもなく、ヨーロッパにおいて遅かれ早かれ革命が始まるだろう。その時までにソヴィエト連邦は建設し、生活し、上昇するだろう。そして、わが連邦、わがモスクワの男女労働者と諸君の工場の男女労働者は今よりも少し強くなってこの革命に参加するだろう。
ドイツ労働者の同志諸君、諸君が権力を獲得し、ドイツ・ブルジョアジーの強力な技術を手中に収める時、諸君とわれわれとの同盟は全人類史を前に押し進めるだろう。
諸君はわれわれから、いかにして革命を行なうかについて学ぶことができるし、われわれは諸君から、わが連邦――労働者と農民の連邦、天然資源、森林、耕作地の連邦――の新しい技術をいかにして作り出すかを学ぶことができるし、学ぶだろう。
わが国と、労働者階級が権力をとったドイツ、高い文化と高度な技術を備えたドイツとの同盟――これは、人類史において最も強力なパクトであり、最も堅固なスムイチカである。そして、ドイツ労働者が権力をとった暁には、全世界の奴隷制度と搾取と植民地的抑圧の世界の上に最後の弔鐘が鳴り響くだろう(拍手)。わが労働者と農民の連邦とドイツ・プロレタリアート万歳!
ドイツ革命万歳!(拍手、オーケストラが「インターナショナル」を演奏)
代表団への挨拶を交わした後、ピオニール団員から旗と祝辞が送られる。
『商工業新聞』1925年12月16日号
新規、本邦初訳
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