ジノヴィエフからクルプスカヤへの手紙
ジノヴィエフ/訳 西島栄
【解題】本稿は、5月15日付のクルプスカヤの手紙に対するジノヴィエフの5月16日付の返事である。
この返事の中でジノヴィエフは、反対派からの決別を公然化しようとするクルプスカヤの行動が「スターリンを助けることになる」ことを的確に指摘している。クルプスカヤが主観的には党の分裂を回避するために取った行動が実際には、反対派の排除という形で党の分裂をいっそう推し進めることになっただけではなく、スターリン独裁に向けて道を掃き清める役割を果たしたのである。
Известия ЦК КПСС, No.2, 1989.
親愛なるN・K
5月15日付のあなたの手紙を受け取りました。もちろん、私はあなたの意向をひどく悲しく思っています。
あなたはまったく誤っています。
あなたの意向にかかわりなく――もちろんそれは善意のものでしょう――、実際にはあなたはスターリンを助けることになるでしょう。スターリンは、事態を分裂にまで持っていきつつあり(それは今では熱病的テンポになっています)、イリイチ大義を守ろうとする同志たちを党から除名していっています。このことをあなたはおそらくすぐに確信するようになるでしょうが、しかしそのときには事態はすでに決まってしまっているのです。
それにしても「空騒ぎ」とは! どうして中国の事件の後にもこのようなことを言うことができるのでしょうか。この事件は、一九一四年の事件と同じ巨大な意味を持っています。中国で何がどのように行なわれたかをちょっとでも調べる気があなたにあれば、その地でどれほどの「誤り」が犯されたかを見ないわけにはいかないでしょうし、沈黙することは犯罪だと大声で叫んだことでしょう。
すべての文書はそれ自身の運命を持っています。あなたの声明は――もしそれが本当になされれば――、あなたがそう望もう望まなかろうが、中国革命を滅ぼした連中を支えるものとなるでしょう。
ここにこそ本質があります。
私の演説がラジオで放送されていたことについては、私は後で知りました。しかし、私の演説にはいかなる「検察官的な」ものもありません。いかなる「第三者からの批判」もありません。私がしたのは、せいぜいマルトゥイノフとスヴェチンの論文(1)の誤りについて指摘したことだけです。
分裂主義者たちがこのことを理由に「先鋭なスキャンダル」を引き起こしているというのに、あなたは私にまるごと責任があると言うのです。いえ、誤っているのはあなたの方です。疑いもなく、あなたはこのことをすぐに確信するようになるでしょう。しかし、そのときにはスターリンはすでに自分の仕事を成し遂げてしまっているのです。
非党員の労働者・農民大衆が「反対派は党とソヴィエトの基本路線に反対しているとみなす」だろうとあなたは書いています。彼らがそのようにみなすとすれば、それは、すべての公式メディアがそのように事態を描き出し、問題の本質に答えようとしないかぎりにおいてです。しかし、総じて人民大衆(とりわけ労働者)は、意見の相違の真の本質を非常によく理解しており、ヴェ・イ
[レーニン]が定めた党とソヴィエトの基本路線を守っているのが他ならぬわれわれであることを理解しています。数週間もしないうちに、あなたはスターリンの企図を思い知ることになるでしょう。ヴェ・イがあれほど恐れていたこと、そして警告を発していたこと、まさにそのことをスターリンがやり遂げるのを、他ならぬあなたが容易にしてやろうとしていることに、私は深く心を痛めています。
しかし、どうしようもありません。各人は自分がなしうるかぎりのボリシェヴィキとしての義務を果たすでしょう。
敬具
1927年5月16日
『ソ連共産党中央委員会通報』1989年2月号
訳注
(1)マルトゥイノフ「中国革命の諸問題」(1927年4月10日付『プラウダ』)、スヴェチン「将来の戦争における軍事技術」(1927年5月1日付『プラウダ』)を指している。
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