スペインに関するパンフレット

トロツキー/訳 西島栄

【解説】本稿は、当時トロツキーの著作権代理人として活動していたチャールズ・ウォーカーに宛てた手紙であり、スペインに関するパンフレットの出版計画について相談している。しかしこのパンフレットは結局書かれなかった。またこの手紙の中では、さまざまな出版計画の中に、トロツキーの自伝の続編を執筆出版する計画もあったことが示されている。この計画も残念ながら実現しなかった。あまりに激動的な情勢は、そのような余裕をトロツキーに与えなかったのである。

 本稿は本邦初訳。

 L.Trotsky, A Pamphlet on Spain, Writings of Leon Trotsky: Supplement (1934-40), Pathfinder, 1973.


  親愛なる同志ウォーカー()

 私は長期にわたってスペイン革命に関する資料・文書を収集し研究してきました。今や1冊の小さな著作、より正確に言えば1冊のパンフレットを容易に書くことができます。スペイン革命の性格の全般的分析に加えて、同革命をめぐるさまざまな新聞記事(とりわけアメリカのもの)とその解釈者や偽造者(ルイス・フィッシャー()や『ネーション』『ニュー・リパブリック』など)に対する論争を含むものとなるでしょう。100〜150頁のこのような著作の執筆には、せいぜい6週間ぐらいかかる程度でしょう。私は原稿を部分部分に分けてそちらに送ろうと思います。そうすれば、ロシア語原稿を書くのとほぼ同じぐらいのテンポで翻訳ができるでしょう。

 このようなパンフレットは現在、広範な世論にとって必須であるように思われます。商業的な観点からしても有意義な事業になるでしょう。ダブルデー・ドラン社[アメリカの著名な大手出版社]がこの原稿を引き受けてくれるならば素晴らしい。同社はこのような出版物から多額の金を稼ぐことができるでしょう。障害はただ、このパンフレットが公然たる革命的精神で書かれるということ、すなわち第4インターナショナルの精神で書かれるということだけです。ダブルデー・ドラン社はこのような「プロパガンダ」の書を恐れたりしないでしょうか? しかしもしそうだとしても、このパンフレットを別の出版社に渡すのは私には非常にやりにくいことです。というのは、すでにレーニンに関する著作で相当に長く待たせているので、それは彼らの忍耐力を悪用することになるからです。

 それと同時に、告白しなければなりませんが、私はスペインに関するこのパンフレットを書きたくてうずうずしているのです。諸事実と諸文書は途方もなく重要です。マルクス主義者の新しい世代は、スペインの事件以上にすぐれた政治教育の学校を見つけ出すことはできません。ダブルデー・ドラン社がこの提案を受け入れてくれたら本当に素晴らしいのですが。私の側の金銭的要求は最小限でけっこう。たとえば、ダブルデー・ドラン社との交渉を成功させるのに必要ならば、前払い金はゼロでもかまいません。自伝に関する仕事は同時進行させることができます。なぜなら後者の仕事の大部分は純粋に技術的な性格を持っているからです(日記やコピーなどによる再現)。この提案に対する回答を最大の関心をもって待っています。

 ご多幸を祈って

 レオン・トロツキー

1937年9月17日

『トロツキー著作集 補遺 1934-40』(パスファインダー社)所収

新規、本邦初訳

  訳注

(1)ウォーカー、チャールズ(1893-1974)……アメリカの作家、大学教授、ギリシャ学者。ミネアポリスのトラック労組「チームスター」のストライキを描いた『アメリカの都市』の作者。当時、トロツキーの著作権代理人として活動し、その出版計画の一つとして、トロツキーの自伝の続編の出版があったが、結局実を結ばなかった。

(2)フィッシャー、ルイス(1896-1970)……アメリカで活躍したジャーナリスト。『イブニング・ポスト』『ネーション』の記者。1923〜36年、ソ連特派員として、ソ連に関する多数の記事を執筆。1920年代のスターリンとトロツキーとの論争では、スターリン派を支持。レーニンに関する伝記の執筆者。

 

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