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レーニンとウエストミンスター宮殿

ウエストミンスター橋から見たウエストミンスター宮殿(19世紀)

(中央の建物が宮殿本体で、国会議事堂として使われている。右端ののっぽの時計が有名なビッグベン。第2次大戦でドイツ軍の空襲によって一部破壊され、戦後再建された)

 「その日の朝だったか、翌日だったか、ウラジーミル・イリイチといっしょにロンドンの街並みを長時間散歩してまわった。レーニンは橋の上からウエストミンスターやその他の有名な建物を教えてくれた。その時レーニンが正確にどう言ったか覚えていないが、『あれが彼らの有名なウエストミンスター[ゴチック様式の国会議事堂]だ』といったニュアンスで語っていた。『彼らの』というのはもちろん、『イギリス人の』という意味ではなく、『支配階級の』という意味である。こうしたニュアンスは、あえて強調したものではなく、すぐれて本能的なものであり、その声色によりはっきりと表れていた。何らかの文化財や新しい成果や、大英博物館の豊富な書籍や、ヨーロッパの大新聞の情報について、あるいは、ずっと後年に、ドイツの大砲やフランスの飛行機について語るとき、レーニンはいつもそういう口調だった。彼らは知っている、彼らは持っている、彼らは何々をした、何々を達成した、だが彼らは敵なのだ! 支配階級の見えない影があらゆる人間文化を覆っているかのように彼の目には映るのであった。そして彼はいつもこの影を白日のようにはっきりと感じとっていた。

 当時の私が、ロンドンの建築物にほとんど関心を持たなかったのはまちがいない。ヴェルホレンスクから初めての外国にいきなりやってきた私にとって、ウィーンもパリもロンドンもきわめて大雑把な印象を与えただけであり、ウエストミンスター宮殿のような『細部』にまで気を配る余裕は、まだなかった。レーニンにしても、もちろん、そんなことのために長い散歩に連れ出したわけではなかった。彼の目的は、私のことをよく知り、それとなく試験することだった。そして試験は実際、『全科目』にわたっていた。」(『わが生涯』第11章「最初の亡命」より)

 

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