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久しぶりの書き込み

 投稿者:管理人  投稿日:2006年 6月 3日(土)23時50分51秒
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  非常に久しぶりの書き込みがあって喜んでいます。
『バルカン戦争』はもちろん読破しましたが、私が感想を書くと手前味噌っぽくなるのでやめておきます。非常におもしろかったのは当然ですが、若干、翻訳に異論があります。とくに「青年トルコ党」が「青年トルコ人」と訳されていることですね。原文は「Young Turks」なので直訳すると「青年トルコ人」ですし、また同組織はいわゆる近代政党的な意味での「党」ではなかったという考えもあって「青年トルコ人」としたのでしょうが(最近ではそういう直訳主義が歴史学の世界にもはびこっている)、日本語の「党」というのは一定の目的をもったある程度均質的な集団というより広い意味も持っているので(「天狗党の乱」や「秩父党の反乱」みたいに)、あの集団を「青年トルコ党」と訳しても翻訳上は何も問題がないだけでなく、少なくともそれが固有名詞であり、かつ一定の集団であったことが訳語からもはっきりするので、「青年トルコ人」と訳すより数倍優れていると確信しています。
 だいたい、歴史上の固有名詞なのですから、そういう風に訳さないと。「青年トルコ党」が原文直訳主義で「青年トルコ人」になるなら、そもそもガリバルディの「赤シャツ隊(Red Shirts)」は単なる「赤シャツ」と訳さなければならなくなるし、ロシアの反革命グループである「黒百人組(Black Hundreds)」は「黒い百」と訳さなければならなくなるでしょう。いずれの訳もそれが、それが歴史的に存在した一定の政治的傾向をもった集団の固有名詞であることがわからなくなるでしょう。
 もし「Young Turks」をどうしても「党」という言葉を使わずに訳したければ、せめて「青年トルコ派」とでもしないと、歴史的に存在した一定の政治的集団の固有名詞であることが翻訳から推測できなくなってしまいます。
 このような誤った原文直訳主義は、あちらこちらで目にします。それはロシア革命研究の世界でも顕著になってきており、「社会革命党」に「社会主義者=革命家」などという素っ頓狂な訳語を当てたり、「立憲民主党」を「立憲主義者=民主主義者」などと訳して、それが原文の正確な訳だと自負する「専門家」がいたりで、本当に困ってしまいます。もしそれらが原文の正確な訳なら、これからアメリカの共和党(Republicans)は「共和主義者」と訳さなければならないし、民主党(Democrats)は「民主主義者」と訳さなければならなくなるでしょう。
 内容よりも翻訳論に話がそれて申し訳ありません。まあいずれにしても、時間をかけて読破するに値する名著ですよ。
 
 
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