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「ロシア思想史研究者」様、どうもありがとうございました。--がмогут...прийти (到達する可能性がある)という語句が省略されていることを示す、とのご教示よく分かりました。またこのмочьを「可能性がある」と訳されているのを見て、自分の理解が間違っていないことに安心しました。さて、「ロシア語原文から訳したわけではないと思われます」とのご指摘に、もしやと思い他の個所を見てみました。
西島訳P53~P54 当時コロンタイと協力していたブハーリンに対する…
原文 на Бухарина, с которым Колонтай была солидарна.
コロンタイが同調していたブハーリンに対する…
ブハーリンとコロンタイとの能動・受動関係が正反対ですね。
姫岡訳P181 当時コロンタイと共同していたブハーリンをも…
西島訳P54上段 スターリン商会に矛先を向けているか…
原文 режут Сталина и К°
スターリンとコミンテルンを窮地に陥れる…
К°はКоминтернの略ですね。トロツキーが「スターリン商会」などという下品な言葉を使うとは考えにくい。и があるのですから「スターリンと~」と考えるべきだと思うのですが。序章でСталин и Коминтернスターリンとコミンテルンという表現が何度も出てきますから。トロツキーはここではコミンテルンをК°と省略形で書いたのですね。序章から読めばи К°を「~商会」と取り違えることは考えられないですね。英訳は見ていませんがおそらくиを無視しК°をcompanyの省略と取ったのではないでしょうか。
姫岡訳P182 スターリン商会に向けられており…
西島訳P54下段~P55上段 …1923年になって……完全に隆盛となった。
原文 родилось целиком в 1923 году
1923年に全てが生まれた
西島訳では1923年以前に対置が始まっていたことになりますが、トロツキー本人は1923年に始まったと書いています。
姫岡訳P182 1923年……おこなわれるようになった
姫岡訳は正しいですね。
西島訳P55上段 …「トロツキズム」との闘争のこうした新しい社会的根源を指摘することは、それ自体としては、永続革命論の成否について何ごとも語るものではない。
原文 Разумеется, эти новые социальные корни борьбы против "троцкизма" сами по себе ничего не говорят ни за ни против правильности теории перманентной революции. Но без понимания этих подспудных корней спор будет неизбежно принимать академически бесплодный характер.
「トロツキズム」に対する闘争のこの新しい社会的基礎それ自体は、むろん、永続革命論の正しさに賛成であるか反対であるかの何ごとをも語りはしない。
永続革命論の正しさに対して賛成か反対かということを何ごとも語らないとあるのを、テオーリヤを無視して永続革命の成否について~と訳しています。ここは姫岡訳の方が正しいですね。本当にロシア語を見たのでしょうか?見ていたらこんな訳文はちょっと書けないですね。
姫岡訳P182 反「トロツキズム」闘争のこれらの新しい社会的な根は、それ自体では、永続革命論の正しさの賛否の何物をも証明しないことはわかっている。
こうしてみるとご指摘のように、西島訳は姫岡訳を下敷きにしていることがよく分かります。そして、大変残念なことですが、ここに挙げた例でいえば姫岡訳よりも精度が落ちるだけでなく、むしろ悪くなってさえいます。
特集解題で訳者の西島氏は「(姫岡訳には)重要な誤訳が多数含まれており、その中にはトロツキーに対する根本的誤解の元となるようなものさえ存在する。そこで今回、ロシア語版にもとづいて全体を訳しなおした」と書いていらっしゃいます。姫岡訳の問題点の指摘はそのとおりです。上の検討でも明らかです。しかし、それ以上に西島訳にこのことが当てはまります。これでは西島氏の本意に反して「低レベルの永続革命論攻撃をする論者が後を絶たない」という事態をまたしても引き起こすことになってしまいます。『永続革命論』は古典になるべきものですから、ぜひとも西島氏と研究所の幹事のみなさまに改訳をお願いしたいと思います。
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