第3章 農民

農業問題と社会主義建設

 「小規模生産は……資本主義とブルジョアジーを、絶えず、毎日・毎時間、自然発生的に、大規模に生み出している」(レーニン、1920年、第17巻、118頁)(1)

 プロレタリア国家が、高度に発達した工業と電化に依拠して、数百万の小規模・零細の農業経営の技術的後進性を克服し、大規模生産と集団化にもとづいて彼らを組織するか、さもなければ資本主義が、農村の中で地盤を確保し、都市においても社会主義の基盤を掘りくずすであろう。

 レーニン主義の観点から見るなら、農民――すなわち他人の労働を搾取していないその主要部分――は、その正しい相互関係にプロレタリア独裁の安定が、したがってまた社会主義革命の命運がかかっている同盟者である。われわれが現在通過しつつある段階に関して、レーニンは次の言葉でもって農民に関するわれわれの任務を最も正確に定式化した――「クラークとの闘争を一瞬たりとも放棄することなく、また貧農にのみしっかりと依拠しながら、中農との協定に達すること」(第15巻、564頁)(2)

 農民問題に関するスターリン=ブハーリン・グループによるレーニン主義の修正は、以下の主要な8点に要約できよう。

 (1)強力な社会主義的工業だけが、集産主義の原理にもとづいて農民が農業を変革するのを助けることができるというマルクス主義の基本的命題の一つを放棄していること。

 (2)農村におけるプロレタリア独裁の社会的基盤としての農場労働者と貧農を過小評価していること。

 (3)農業においていわゆる「強い」農民、すなわち実際にはクラークに賭けていること。

 (4)農民的所有と農民経済の小ブルジョア的性格を無視ないし公然と否認していること。これは、マルクス主義の立場からエスエルの理論への逸脱を意味する。

 (5)農村の発展に見られる資本主義的要素を過小評価して、農民の階層分化を曖昧にしていること。

 (6)「クラークとクラーク組織はどのみち滅びる運命である。なぜなら、わが国の全般的な発展枠組みはプロレタリア独裁の構造によって前もって決定されているからだ」(ブハーリン『社会主義への道と労農同盟』、49頁)という、人々の意識を眠り込ませる理論をつくり出していること。

 (7)「クラーク的・協同組合的中核が、わが国のシステムに」根づくことを追求していること(ブハーリン、同前、49頁)。「問題はこうだ。富農の経済的可能性、クラークの経済的可能性を発展させる必要があるということである」(『プラウダ』1925年4月24日付)。

 (8)レーニンの「協同組合計画」をレーニンの電化計画に対立させる試み。レーニン自身の考えによると、この2つの計画が結合してはじめて、社会主義への移行を保証することができるのである。

 公式路線のこうした修正主義的傾向に依拠して、新しいブルジョアジーの代表者たちは、わが国の国家機構の一部と結びつきつつ、農村における政策を資本主義的軌道に切り換えるよう公然と努力している。その際、クラークとそのイデオローグたちは、自らの野望を、生産力の発展や商品生産「一般」の成長といったものへの配慮という煙幕で隠蔽している。だが実際には、生産力のクラーク的発展と商品生産のクラーク的増大こそが、残りの大多数の農民経営における生産力の発展を抑制し阻害しているのである。

 農業においては比較的急速に復興過程が進行したにもかかわらず、農家による商品生産化は非常に弱い。1925〜26年度において、市場への出荷量は、戦前の64%にすぎず、輸出は1913年の24%でしかなかった。この原因は、農村それ自体による消費量が増大したことを別とすれば(住民の増加と農業経営の細分化。さらに穀倉地帯の38%の農家が穀物を買い足したため)、農産物価格と工業製品価格との鋏状価格差と、クラークによる急速な現物蓄積にある。ゴスプランの5ヵ年計画も次のことを認識せざるをえなくなっている――「総じて工業商品の不足が、都市と農村との等価交換に明確な限界を課しており、市場に商品として出荷される可能性のある農産物の量を低く抑えている」。このように、工業の立ち遅れが農業の成長ととりわけ農産物商品の増大を抑制し、都市と農村とのスムイチカを掘りくずし、農民の急速な階級分化をもたらしているのである。

 農民政策の係争問題に関する反対派の見解の正しさが全面的に確証された。反対派が鋭い批判に影響されて、主流派の総路線に部分的な修正がなされたが、それだけでは、公式路線が「強い農民」の側へと不断に偏向していくのを阻止することはできなかった。第4回ソヴィエト大会が、カリーニンの報告にもとづく決議の中で、農村における階層分化とクラークの成長について一言も言わなかったことを想起するだけで十分だろう。

 このような政策の結果はたった一つ、貧農の支持を失い、中農を獲得するのに失敗することであろう。

 

農民の階層分化

 この数年間に農村では資本主義的な階層分化が著しく進行した。

 この4年の間に、播種地のない農民とわずかな播種地しかない農民のグループは、35〜45%減少した。6〜10デシャチーナの播種地のあるグループは同じ期間に100〜120%増加した。10デシャチーナ以上の播種地のあるグループは150〜200%も増加した。播種地のない農民とわずかな播種地しかない農民のグループの割合が減少した原因はかなりの程度、彼らが破産し解体したことである。たとえば、シベリアでは1年間に、播種地のない農家の15・8%と播種地が2デシャチーナ未満の農家の3・8%が解体した。北カフカースでは、播種地のない農家の14・1%と、播種地が2デシャチーナ未満の農家の3・8%が解体した。

 馬も農具もない農家が中農の下層に移行する過程は、きわめて緩慢にしか進行していない。現時点でも連邦全体で、馬も農具もない農家が30〜40%も残っており、その大部分はわずかな播種地しかない農民のグループに属している。

 基本的生産手段の分布は北カフカースでは次のようになっている。50%の零細農家に基本的生産手段の15%が属し、35%の中農グループに、基本的生産手段の35%が属し、15%の最上層グループに、生産手段の50%が属している。生産手段分布の同じような構図は、他の地域でも見られる(シベリア、ウクライナなど)。

 播種地と生産手段分布のこうした不均等性は、各農民グループごとの穀物貯蔵の不均等な分布によっても確証される。1926年4月1日には、農村における全余剰穀物の58%が、6%の農家の手中にあった(『統計評論』第4号、15頁、1927年)。

 土地の賃貸は、年を経るごとにますます大きな規模になりつつある。土地を賃貸している農家は、主として、生産手段を所有している大播種地農民である。ほとんどの場合、彼らは土地を賃貸している事実を、税金を逃れるために隠蔽している。零細な播種地はあるが農具と家畜を所有していない農家は、主に農具と家畜を賃借りして土地を耕作している。土地の賃貸条件のみならず、農具と家畜の賃貸条件も、ほとんど債務奴隷的である。現物の債務奴隷的関係の発展と並行して、貨幣の高利貸も成長しつつある。

 現在、農家の細分化の過程が進行しつつあるが、これは階級分化の過程を弱めるどころか強めている。

 農業機械と信用は、農業の社会化にとっての梃子として役立つどころか、ほとんどがクラークと半富農の手中に入り、農場労働者や貧農や下層中農を搾取するのを助けている。

 最上層の農民グループの手中に土地と生産手段が集中するとともに、この最上層が賃労働を利用する程度もますます増大している。

 他方で、下層農民と一部の中農グループは、完全な破産と解体によるかまたは家族の個々の成員が出ていくかして、ますます大量の労働力を輩出している。これらの「過剰」労働力は、クラークないし「強力な」中農に隷属するに至るか、あるいは都市に出ていくが、そのかなりの部分は何らの雇用も見出せないでいる。

 こうした過程が非常に深く進行し、中農の経済的比重の低下をもたらしているとはいえ、中農は数の上では依然として最大の農村グループである。農業における社会主義的政策の側にこの中農を引きつけることは、プロレタリア独裁の最も重要な課題の一つである。いわゆる「強い農民」に希望を託すことは、実際においてはこの中農のさらなる解体に希望を託すことを意味する。

 農場労働者に必要な注意を向けること、貧農に焦点を合わせ中農との同盟をめざすこと、クラークとの断固たる闘争を遂行すること、農村における正しい階級的な協同組合化と信用供与をめざすこと――以上のことによってはじめて、農業の社会主義的な改造を目指す事業に中農を引き入れることができるのである。

 

実践的な諸提案

 現在農村で展開されている階級闘争において、党は言葉によってでなく行為によって農場労働者と貧農と中農大衆の先頭に立ち、彼らをクラークの搾取的傾向に対抗して組織しなければならない

 労働者階級の一部である農業プロレタリアートの階級的立場を強化し確固たるものにするためにはまず、工業労働者階級の状態に関するの中で指摘された一連の諸措置を実行しなければならない。

 農業向け信用が主として農村の富裕グループの特権になっている事態に終止符を打つこと。貧農向けの基金――それ自体としてはまったく微々たるものだが――がしばしば当初の目的に使われるのではなく、富農と中農のために利用されているような現在の状況を終わらせなければならない。

 農村における私的農場経営の増大に対し集団農場のより急速な発展によって対抗しなければならない。集団農場に組織された貧農を支援する相当額の助成金を年々系統的に支出しなければならない。

 これと並んで、集団農場に包含されていない貧農に対しても系統的な援助を行なわなければならない。彼らに対する課税の全面的な免除、しかるべき土地配分政策、農業経営上必要なさまざまな物品向けの信用、農業協同組合への加入促進、等々。

 「ソヴィエトの活性化を通じて非党員の農民活動家を創出せよ」というスローガン(スターリン=モロトフ)は階級的内容がまったく欠落しており、現実においては農村の上層部の指導的役割の強化をもたらすだろう。こうしたスローガンに対して、われわれは次のようなスローガンを対置しなければならない。すなわち、農場労働者、貧農、そして彼らに近い中農から構成される非党員の活動家を創出せよ。

 至るところに計画的で強力な真の貧農組織が必要であり、この組織の中心課題は、再選挙、納税カンパニア、信用や農業機械などの配分に対する影響力の行使、土地の配分とその利用、協同組合の結成、貧農の協同組合化のための基金の実現、といった生活上・政治上・経済上の諸課題である。

 党は、全力を尽くして農村の中農グループの経済的向上を促進しなければならない。そのために、適正な穀物調達価格政策、中農に利用しやすい形で信用と協同組合を組織すること、農村で最も数が多いこの農民層を機械化された大規模な集団農場へと系統的かつ段階的に移行させることが必要である。

 農村の増大しつつあるクラーク階層に対する党の課題は、彼らの搾取者的野望をできるだけ制限することでなければならない。農村の搾取階層からソヴィエト選挙権を剥奪している憲法の条項からのどんなわずかな逸脱も許されない。以下の諸措置が必要である。高度な累進課税制度、農村の賃労働者を保護し農業労働者の賃金を調整するための国家規模の立法措置、土地の配分と利用の分野における正しい階級的政策、農村にトラクターや他の生産用具を供給する問題における同様の政策、である。

 農村における土地賃貸関係の発展、ますますクラークの影響下に陥りつつある土地組合〔コルホーズの前身で土地の集団的管理を実施〕がソヴィエトのあらゆる指導と統制を逃れて土地を自由に処分するという現在の土地利用のあり方、土地再分割のさいの「補償金」に関するソヴィエト第4回大会が採択した決議――これらすべては土地国有化の基盤を掘りくずしつつある。

 土地国有化を強化する本質的な措置の一つは、土地組合を地区権力機関に従属させることであり、クラークの専横から貧農と下層中農の利益を最大限擁護するために、クラークを放逐した地方ソヴィエトの側に、土地の配分と利用の調整に対する確固たる統制権を確立することである。土地組合におけるクラークの専横を取り除くために、これまでの経験にもとづいて一連の補足的措置を作成しなければならない。とりわけ、土地の賃貸者たるクラークが、農村におけるソヴィエト権力の諸機関による監督と統制に、言葉の上ではなく実際において、全面的かつ完全に服従しなければならない。

 党は、プロレタリアートの独裁の基礎的柱石の一つである土地国有化を廃棄ないし掘りくずす方向をもったあらゆる傾向に対して、壊滅的な反撃を行なわなければならない。

 単一農業税という現行制度は、最も貧しい農家および零細農家の税金を40〜50%免除する方向で変更しなければならない。その際、どんな形であれ中農の主要部分に追加的な課税をしてはならない。税を徴収する期日は、納税者の下層グループの利益に適応すべきである。

 ソフホーズとコルホーズを建設するために、はるかに多くの資金を投資しなければならない。新たに組織されたコルホーズやその他の集団化の形態に対して、最大限の特典を与えなければならない。選挙権を持たない人々がコルホーズの成員になるのを許してはならない。協同組合の全活動には小生産を集団的大生産に転換させるという課題を貫徹しなければならない。機械供給の分野において厳格な階級的政策を遂行し、とりわけ、ニセの機械製造会社に対して闘争を遂行しなければならない。

 土地配分事業の費用はすべて国家が負担しなければならない。その際何よりも、集団農場と貧農経営に土地が配分され、それらの利益が最大限保護されなければならない。

 穀物や他の農産物の価格は、貧農と中農の主要部分にとって、少なくとも現在の水準を維持しつつ徐々にそれを改善する可能性を保証するものでなければならない。秋と春の穀物調達価格の不均衡を取り除くためにあらゆる措置を講じなければならない。というのは、この不均衡は農村の下層に対する重荷となり、上層にすべての利益を与えるからである。

 貧農支援基金への支出を著しく増額させるだけでなく、農業信用の方向性そのものを変更し、貧農と中農の下層に対して低利・長期の信用を保証するとともに、担保と連帯保証という現行制度を変更しなければならない。

 

協同組合について

 農村における社会主義建設の課題は、機械化した大規模な集団経営の原理にもとづいて農業を改造することである。大部分の農民にとってこれに向けた最も確実な道は、レーニンが「協同組合について」で叙述したように協同組合化である。これこそが、プロレタリアートの独裁とソヴィエト体制全体が農民に与えている巨大な優位性である。社会主義的生産の協同組合化(集団化)の基盤を拡大することができるのは、農業の工業化を発展させる場合のみである。まさに生産様式そのものにおける技術革命なしには、すなわち、農業機械や農業科学なしには、輪作への移行なしには、人工肥料等々なしには、農業の真の集団化をめざす広範な事業が成功するのは不可能である。

 穀物調達協同組合および販売協同組合は、ただ次の場合のみ社会主義への道になるだろう。(1)経済の社会主義的要素、何よりも大工業と労働組合の直接的な経済的・政治的な働きかけのもとで協同組合の活動がなされること、(2)農業の販売機能の協同組合化の過程が、農業集団化の強化へと徐々に到ることである。

 農業協同組合の階級的性格は、協同組合に属する農民のさまざまなグループの人的比重によって決定されるだけではなく、何よりもその経済的比重によって決定される。党の課題は、農業協同組合が真に農村の貧農グループと中農グループとの連合体となり、この要素がクラークの増大する経済力との闘争における武器となるようにすることである。協同組合を建設する活動に農業プロレタリアートを系統的に粘り強く引き込まなければならない。

 協同組合の建設が成功することができるのは、協同組合に結集した住民の自主活動が最大限発揮される場合のみである。協同組合が大工業およびプロレタリア国家と正しく結びつくためには、官僚主義的な規制方法を排除した協同組合組織の正常な活動を前提としている。

 党の指導部が農村におけるボリシェヴィズムの基本路線から、半富農とクラークに賭ける路線にはっきりと移行したこと、この路線を、「貧農的幻想」「居候根性」「怠け病」とか、あるいはソ連邦の防衛には貧農はあまり役立たないなどという反プロレタリア的言説で隠蔽していること――以上のことを鑑みると、わが党綱領の次の一節を想起することがいつにもまして必要である。綱領は、中農との同盟がわれわれにとって持つ決定的な意義の問題を正面から提起した後で、次のようにはっきりと明確に指摘している。「ソ連共産党は、農村での全活動を通じて、以前と同様、農村のプロレタリア的・半プロレタリア的勢力に依拠し、何よりも彼らを独立の勢力に組織し、農村に党支部、貧農組織、農村のプロレタリアと半プロレタリアの独自のタイプの労働組合、等々を創出し、彼らをできるだけ都市プロレタリアートに接近させ、農村ブルジョアジーと小所有者的利益の影響下から引き離す」。

  訳注

(1)レーニン「共産主義の『左翼主義』小児病」、邦訳『レーニン全集』第31巻、8頁。

(2)レーニン「ピチリム・ソローキンの貴重な告白」、邦訳『レーニン全集』第28巻、197頁。

 

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