第6章 民族問題

 社会主義的発展の全般的テンポの減速、都市と農村における新ブルジョアジーの成長、ブルジョア・インテリゲンツィアの台頭、国家諸機関における官僚主義の増大、党内の誤った体制、そしてこれらすべてと結びついた大国主義的排外主義と民族主義一般の成長――以上のことは、ソ連内部の民族地域と各共和国のうちにとりわけ病的な形で反映している。これらの共和国の一部には前資本主義的ウクラードの残滓が存在しているために、いっそう事態が深刻なものになっている。

 ネップの諸条件のもとでは私的資本の役割は、工業の発展が遅れている辺境地域においてとくに増大している。このような地域では経済機関はしばしば、私的所有者に全面的に頼っている。貧農と中農大衆の実情を考慮することなしに価格を定め、農場労働者の賃金を人為的に引き下げ、原材料の供給者たる農民と工業との間の私的・官僚的仲介の制度をとめどなく拡大し、協同組合建設を主として農村の富裕層に奉仕させる方向で行ない、とくに立ち遅れた階層である畜産業者や半畜産業者の利益を軽視している。各民族地域において工業建設の計画、とりわけ農業原材料の加工を工業化するための計画を遂行するという喫緊の課題が、まったく後景に退ぞけられたままである。

 大国主義的排外主義に立脚した官僚主義のおかげで、ソヴィエトの中央集権化は諸民族間で役人の地位を配分するさいの軋轢の源泉となり(ザカフカス連邦)、中央と辺境地帯との関係は損なわれ、民族ソヴィエト〔ソ連最高会議を構成する二院の一方〕の意義は事実上無に帰され、自治共和国に対する官僚的後見は、現地の住民とロシア人住民との土地紛争を解決する権利を自治共和国から剥奪するほどまでに肥大化した。今日に至るまで、大国主義的排外主義は、とりわけそれが国家機関を通じて発揮されているがゆえに、さまざまな民族の勤労者の相互接近と団結にとって今なお主要な敵である。

 貧農への真の援助、中農の基本部分と貧農・農場労働者との接近、農場労働者を独立の階級勢力として組織すること――これらすべては民族共和国と民族地域において特別の意義を有している。農場労働者を実際に組織化することなしには、貧農の協同組合化と団結なしには、東方の後進的農村は伝統的隷属状態に置かれつづけ、われわれの党細胞も真の下部カードルのない状況に置かれる危険性がある。

 最も後進的な、ないし覚醒しはじめたばかりの諸民族の共産主義者の課題は、勤労大衆を経済的・文化約建設事業に引き入れることを通じて、とりわけ、各地方の民族言語と学校建設の発展、ソヴィエト機関の「民族化」を促進することを通じて、民族的覚醒の過程をソヴィエト的・社会主義的路線に沿う方向に導くことでなければならない。

 他の諸民族や少数民族との軋櫟が存在する地域では、ブルジョア分子の成長にともなって民族主義がしばしば明白に攻撃的なものになっている。そのため、地方行政機構の「民族化」は少数民族の犠牲において行なわれている。国境問題は民族間の怨恨の源泉になっている。党・ソヴィエト・労働組合の仕事の雰囲気は、民族主義に毒されている。

 ウクライナ化、トルコ化等々を正しく遂行することができるのは、一方ではソヴィエトの諸制度・機関における大国主義的・官僚主義的態度を克服することによってのみであり、他方では、民族共和国においてプロレタリアートの指導的役割が維持され、農村の下層を支柱とし、クラーク的分子や排外主義分子との絶え間ない非妥協的な闘争を遂行する場合のみである。

 この問題は、ドンバスやバクーのような、現地のプロレタリア住民の大部分がその民族的出自において辺境の農村住民と異なっているような工業中心地ではとりわけ重要である。このような場合、都市と農村との正しい文化的・政治的な相互関係が可能となるのは、(1)民族の異なる農村の物質的・精神的な要求に対して、都市の側がとくに注意深く、真に兄弟的な態度をとること、(2)都市と農村との間に楔を打とうとするあらゆるブルジョア的試み――農村に対する官僚主義的傲慢を養うことによってであれ、都市に対する反動的クラークの嫉妬を培うことによってであれ――対して容赦のない反撃をすること、である。

 官僚主義体制は、国家機構の表面的・名目的な「民族化」を実際に遂行する仕事を、小役人、スペッツ〔ブルジョア専門家の俗称〕、小ブルジョア教師の手に委ねている。彼らは都市と農村の上層と無数の社会的・日常的紐帯で結びついており、自己の政策をこの上層の利益に順応させている。このことは、現地の貧農を党やソヴィエト権力から離反させ、現地の商業ブルジョアジー・高利貸・反動的神父・封建的家父長分子の懐に追いやっている。同時に官僚主義体制は、各民族の真正の共産主義分子を後景に退ぞけ、彼らをしばしば「偏向者」として断罪し、全力を尽くして迫害している。このことはたとえば、グルジア古参ボリシェヴィキの有力グループに起こった。彼らは、スターリン・グループの不興を買ったが、生涯の最後の時期にあったレーニンに熱烈に擁護された。

 10月革命によって可能となったさまざまな民族共和国と民族地域の勤労大衆の台頭こそ、これらの大衆が、実際の建設事業に直接かつ独立して参加することを熱望している理由である。ところが、官僚主義体制は、この熱望を地方民族主義であると叫びたてて麻痺させようとしている。

 ソ連共産党(ボ)の第12回大会は、「大国主義的排外主義の遺物」・「ソヴィエト連邦内部の諸民族の経済的・文化的不平等」・「民族的抑圧の過酷な頚木のもとにあった多くの民族における民族主義の遺物」に反対する闘争の必要性を承認した。さまざまな民族共和国・地域の幹部活動家を招いた第4回協議会(1923年)は、「党の根本的課題の一つが、民族共和国・地域において現地住民のプロレタリア的・半プロレタリア的分子から共産主義組織を育成・発展させることである」と指摘した。この協議会は、中央から後進的な民族共和国・地域へと赴く共産党員が「学校教師や子守ではなく、協力者」(レーニン)としての役割を果すべきであると満場一致で宣言した。ところが、この数年間、全事態はまさに反対の方向に進展してきた。ソ連共産党中央委員会の書記局によって任命された各民族党の指導部は、党とソヴィエトのあらゆる問題の実際の決定権を握り、各民族の活動家たちを2級の共産主義者として押しのけ、単に形式的な「代表」の地位に就かせるためだけに仕事に引き入れている(クリミア、カザフスタン、トルクメニスタン、タタール、北フカースの山岳地帯など)。現地の全活動家を「右派」と「左派」に人為的に分割することが一個のシステムとして強行されているが、それは、中央が任命した党書記が双方のグループを無制限に支配することができるようにするためである。

 民族政策の分野においても、他の諸分野と同様に、次のようなレーニン主義的立場に立ち返らなければならない。

 1、さまざまな民族の労働者に見られる民族主義的不和を克服するために、はるかに系統的で原則的で粘り強い活動を実行すること。そのためにはとりわけ、新たに参加してきた「少数民族」労働者に対して配慮ある態度をとり、彼らの熟練と技能を向上させ、彼らの住宅事情、生活・文化状況を改善すること、等々が必要である。

 後進民族地域の農村をソヴィエト建設に導き入れるための真のテコは、現地住民の中にプロレタリア的カードルを創出し育成することであることをしっかり理解すること。

 2、工業的に立ち遅れた辺境地帯における工業化のテンポを引き上げるという見地から、経済5ヵ年計画を再検討すること。民族共和国・地域の利益を考慮に入れた15年の全般的計画を作成すること。貧農と中農の農家のつくる特産物(中央アジアの綿花、クリミアやアプハジヤのタバコなど)を発展させるために国の買付政策を修正すること。協同組合の信用政策も、土地改良政策も(中央アジアや南カフカースなど)、厳密に階級的な路線にもとづいて、社会主義建設の基本的課題と調和するように遂行しなければならない。畜産協同組合の発展にしかるべき注意を向けること。農業原材料の加工の工業化を現地の諸条件に適した仕方で遂行すること。

 移住政策を、民族問題に関する正しい政策の利益と厳密に合致するように再検討すること。

 3、各級ソヴィエト機関のみならず、党・労働組合・協同組合の諸機関の民族化を、階級関係と民族関係を考慮して良心的に遂行すること。国家や協同組合その他の諸機関の活動における植民者的偏向に対して断固たる闘争を遂行すること。中央と辺境地帯とのあらゆる官僚主義的仲介を廃止すること。ザカフカス連邦の活動の経験を、ザカフカスの諸民族の工業的・文化的発展の利益に合致させる立場から検討すること。

 4、ソ連邦のさまざまな諸民族の勤労者が社会主義建設と国際革命にもとづいてできるだけ接近し団結する上でのあらゆる困難を系統的に取り除くこと。他の諸民族の労働者・農民に多数派民族の言語を機械的に押しつけることに対して断固たる闘争を展開すること。この問題においては勤労大衆に完全な選択の自由を与えるべきである。あらゆる民族共和国・地域の国境内部のあらゆる少数民族に現実的な諸権利が保証されなければならない。この活動全体において、以前は抑圧されていた民族とかつての抑圧民族との間に生起する特殊事情に注意深い配慮を払わなければならない。

 5、すべての民族共和国・地域において、党内民主主義を首尾一貫して実行すること。少数民族に対する支配・命令の態度、上からの任命・追放を全面的に拒否すること。少数民族の共産党員を右派と左派に無理やり分ける政策を拒否すること。現地の下層プロレタリア・半プロレタリア・農場労働者・(反クラークの)農民の活動家を最も入念に登用し訓練すること。

 6、ウストリャーロフ主義的傾向およびあらゆる種類の大国主義的傾向――とりわけ中央部の各人民委員会と国家機関一般におけるそれ――と闘争すること。民族問題における明確で首尾一貫した階級的政策にもとづいて現地の民族主義に対する思想闘争をすること。

 7、民族ソヴィエトを、各民族共和国・地域と結びつきそれらの利益を擁護する真の行動的機関に転化すること。

 8、労働組合活動において民族的要素にしかるべき注意を払うこと。現地プロレタリアートのカードルの形成に配慮すること。現地での組合活動は同地の土着の言語で行なうこと。すべての民族と少数民族の利益を擁護すること。

 9、搾取分子の選挙権を無条件に剥奪すること。

 10、第5回民族協議会を「下部」を真に代表する形で招集すること。

 11、民族問題におけるスターリン路線への批判を主眼としているレーニンの民族問題に関する手紙を新聞雑誌に公表すること。

 

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